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「死の淵を見た男」読了後に思いふける、退職、独立、現場、生き方

 

死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日

死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日

  • 作者:門田 隆将
  • 発売日: 2012/11/24
  • メディア: 単行本
 

 東日本大震災発生から9年が過ぎ、そのノンフィクション映画が公開されることからこの本の存在を知り、読んでみた。大津波に襲われ、日本を放射能汚染を食い止めた福島第一原発の現場の記録である。

 

感想を率直に申し上げると、想定外のことが起きても、そこに人がいる限り、使命があり、守るべき人がいて、だからやるべきことを最後までやり、結果は自ずと出るのだということを強く感じた。そして強いリーダーがいれば、部下がついてきて、強いチームが生まれ、人を束ねると強い行動力が生まれ、人は追い詰められるほど結束力と行動力で想定外を押し切るのだと、改めて人間の素晴らしさを認識させられた。

 

私は全く原発のことはわからないが、どちらかというと原発は生活には必要だと思っている。生活にエネルギーは欠かせない。ただエネルギーをどのようにして生成し、多くの人々が安定して取得するのかと考えると、一般的な様々な意見がある中で、現代においては原発が適してるという意見に賛同する。このような大事故が起きたからこの世から排除するのではなく、人の暮らしを豊かにする素晴らしい技術と、これを供給する技術者をもっと評価し、本の終盤にもあるが、そもそもの運用に対しての想定の意識を高め、この事故を教訓に、時代ごとに原点に戻り運用基準を見直して行けば良いのではないかと考える。

 

話は変わるが、私は2014年に15年在籍した会社を退職し、脱サラした。独立への思いもあったが、どちらかというと円満退職ではなく、会社に不満をもったまま辞めた。誰でもサラリーマンは仕事を辞めたくなる時期があると思うが、とどまっている人は多くいると思う。私が辞める気持ちを止められなかったのは、会社内に尊敬できる人物がいなかったことが大きい。この人の言うことなら黙って聞く、そんな人物に15年間出会えなかった。「死の淵を見た男」を読んで、福島第一原発の現場が羨ましかった。

その前に4年間在籍した職場には、尊敬できる人物がいた。妻との結婚を機にその職場を辞めざるを得なかったが、その方から教わった仕事の哲学が現在に至るまで仕事のベースになっており、それを超える人物と出会えてない。出会おうとしない自分もいるが。

 

15年間勤務した職は運送業で、運転も管理者も経験した。運送の現場はしばしば混乱が生じる。天候や交通の乱れにより、荷物が届かないと、作業は時間に追われ、お客さんからは問い合わせが多数入り、普段より時間が限られる中で、多くの仕事をこなさなければならなくなる。時間には限りがある。24時間働くわけには行かない。限られた時間に終わらない仕事もあるが、なにかしら目処をつけなければならない。運送はものを右から左に流すだけの仕事ではなく、必ずものを送る人、受け取る人がいる。お客さんに謝り、説得し、どのようにその果たせなかった約束を別のかたちで受け入れてもらうのか、経験と知恵でなんとか乗り越えてきた。

しかしこれも、4年間在籍した前の仕事の経験があってのことだった。その仕事はサービス業で、少なく見積もっても幅広い年代の性別問わない10000人くらいの方々4年間であるがお世話させていただいた。お客さんと言葉を交わし、寝食を伴い、貴重な休日を喜んで過ごしていただくサービスであり、日本人に限らず様々な人間がいるのだと、働くと同時に人間の素の姿を学んだ4年間であった。

 

今も独立して運送を続けているが、1日100個あまり宅配する単純作業。東電のような未曾有の大事故に巻き込まれる当事者には恐らくならないだろう。しかしいつ何が起きても動じないように、思い込みをなくし、時間を大切にし、原理原則を守って物事に対処し続けることが、最終的に人に喜びや安心を与えられることだと思う。ただ、未だに共通認識をもった仲間や尊敬する人物が、周囲にはいない。でかい仕事は、まだ当分できそうにないな。